せっかく転職したのに、「入社前に聞いていた話と全然ちがう!」というトラブルに巻き込まれるのはイヤですよね。
とくに給料や残業時間の有無については、入社後に不満を感じやすいポイント。
本来、あなたがどのような条件で働くかは、入社前に書面できちんと提示されるはずです。
ただし、口頭だけの通知で済ませようとする悪質な会社が存在するのも事実。
「こんな会社に転職するんじゃなかった・・・」
と後悔しないために、入社前に確認すべき労働条件の基礎知識について詳しく解説します。
近いうちに転職を検討中の方は、ぜひ参考にしてみてください。
労働条件は入社前に必ず書面で確認
何度かの面接を経て内定をもらったら、どのような条件で働くことになるのか会社から書面で提示されるはずです。
今の職場へ入社したとき、「労働条件通知書」という書類を渡されませんでしたか?
働く人に労働条件を明示しないといけない、というのは労働基準法第15条で明確に定められています。
- 使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。この場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、厚生労働省令で定める方法により明示しなければならない。
- 前項の規定によつて明示された労働条件が事実と相違する場合においては、労働者は、即時に労働契約を解除することができる。
引用元:WIKIBOOKS 労働基準法第15条
労働基準法第15条は労働条件を通知することの必要性について記載されているものの、書面での通知が必要だとは書かれていません。
しかしながら、厚生労働省が公開している「人を雇うときのルール」には書面で通知しないといけない、と明記されています。
労働契約を結ぶときには、使用者が労働者に労働条件を明示することが必要です。 さらに、特に重要な次の項目については、口約束だけではなく、きちんと書面を交付する必要があります
- 契約はいつまでか(労働契約の期間に関すること)
- 期間の定めがある契約の更新についての決まり(更新があるかどうか、更新する場合の判断のしかたなど)
- どこでどんな仕事をするのか(仕事をする場所、仕事の内容)
- 仕事の時間や休みはどうなっているのか(仕事の始めと終わりの時刻、残業の有無、休憩時間、休日・休暇、就業時転換〔交替制〕勤務のローテーションなど)
- 賃金をどのように支払うのか(賃金の決定、計算と支払いの方法、締切りと支払いの時期)
- 辞めるときのきまり(退職に関すること(解雇の事由を含む))
引用元:厚生労働省 人を雇うときのルール
万が一、入社予定の会社が書面による労働条件の通知を嫌がったなら、厚生労働省のサイトのURLをメールで送り付けてやりましょう。
入社前に会社から提示されるべき項目
先ほどご紹介したように、入社前に会社から提示される労働条件は法令により提示すべき項目が決められています。
項目の多くは全員に共通する内容ですが、なかには契約社員のように期間の定めがある従業員にだけ適用される項目もあります。
具体的にどのような点を確認すればよいのか、順に確認していきましょう。
なお、労働条件通知書のサンプルを以下リンク先からご覧いただけます。
社名及び所在地、日付
これらはビジネス文書では当たり前の項目ですが、日付は本日(郵送の場合は、発送日)のものか、確認が必要です。
さらに募集していた際の社名や、面接時に訪問した場所とは異なる社名や所在地が記載されている場合があるかもしれません。
「知名度抜群の大企業で働けるはずだったのに、実際の雇用先は従業員数十名の子会社だった・・・」
なんてケースもあるので、くれぐれも注意が必要です。
不明な点があれば、遠慮なく確認しましょう。
契約期間の有無
契約期間があるかどうかは、あなたが仕事を続けられる期間を示す極めて重要な項目です。
「期間の定めなし」と書いてある場合は、原則としてあなたが退職届を出すまで仕事を続けられるということ。
一般的に正社員として働く場合、契約期間は定められないことがほとんどです。
この場合、会社があなたを解雇することは不可能ではありませんが、そのケースは法令により限定されています。
一方で「期間の定めあり」と書いてある場合は、後に記載する「契約社員や期間に定めがある場合の確認事項」も確認してください。
勤務地はどこか
勤務地には、あなたが最初に働く場所が指定されます。
もし「東京23区内」などと具体的な場所が書かれていない場合は、他社に常駐して働くケースもあるため、事前に確認しておきましょう。
なお労働条件通知書には「最初に働く場所」を記載すればよいこととなっているため、転勤はあり得ることに注意が必要です。
仕事内容について
仕事内容は、「従事すべき業務の内容」に記載される項目を指します。
面接のときに聞いていた配属部署や業務内容とズレがないか、よく確認しておきましょう。
仕事内容についても入社後に任される職務を書けばよいことになっていますから、将来の配置転換を意味しないことに要注意です。
休日
完全週休2日と週休2日のちがいをきちんと理解していますか?
なかには週の休みが1日だけ、祝日は出勤日とするといった会社もありますから、必ず確認しましょう。
またシフト制の場合は「4週8休制で、個別にシフト表で示す」などという形式もあります。
不安な方は以下の記事もあわせてご覧ください。
勤務時間や休憩時間、残業の有無
何時から何時まで働くか、は日々の生活を送るうえでとても重要な項目ですよね。
労働条件通知書には開始時刻と終了時刻が書かれていますから、開始時刻の5分前までには会社に到着し、仕事を始められる準備をしましょう。
実働6時間を超える場合は45分、8時間を超える場合は1時間以上の休憩が必要です。
また、残業の可能性があるかについても入社前にきちんと確認しておきましょう。
ほとんどは「所定時間外労働の有無」が「有」になっていると思いますが、定時退社を徹底する企業では「無」になっている場合もあります。
休暇
労働者には会社が決めた休日のほかに、休暇が与えられます。
多くは会社独自の制度ですが、有給休暇については法令により、原則として以下の日数が与えられることになっています。
- 勤続6ヶ月以上の方は10日
- 勤続1年6ヶ月以上の方は11日、2年6ヶ月以上のかたは12日
- 以後、1年経過するごとに2日ずつ加算(但し上限は年20日)
「有給休暇なんてほとんど使ったことがない・・・」
という方も多いですが、労働者に与えられた権利なんですから積極的に活用しましょう。
賃金の金額、内訳、締日と支払日
給料に関する記載も重要ですよね。
労働条件通知書ではあなたの賃金について、以下の項目を記載するルールになっています。
- 基本給の金額(時給、日給、月給のいずれか)
- 諸手当の種類と金額
- 残業をさせる場合は、賃金の割増率
- 締め日と支払日(たとえば、月末締めの翌月25日払いなど)
- 支払い方法(一般的には銀行振込)
あわせて基本給が最低賃金額を下回っていないか、賃金の割増率が法令を下回っていないかもチェックしておきましょう。
退職に関すること
労働条件通知書には下記に示す通り、会社を辞める場合のことも書かれています。
- 定年や継続雇用制度について
- 自己都合で退職する場合の手続き期限
- あなたが解雇される場合
転職したばかりで、すぐに退職を考える人は少ないものの、いざというときのためにきちんと確認しておくべきです。
また、退職のルールについては以下の記事もあわせてご覧ください。
契約社員や期間に定めがある場合の確認事項
あなたが契約社員として働く場合をはじめ、契約期間に「期間の定めあり」と書かれている場合は確認すべき項目が少し増えます。
どういった点をチェックすべきなのか、順に見ていきましょう。
契約期間
「期間の定めあり」と書かれている場合、あなたの契約期間が書かれていますから必ず確認しましょう。
なお、契約期間中は原則として会社があなたを辞めさせることはもちろん、あなたが会社を辞めることもできません。
ただし1年を超える契約の場合、契約日から1年経過した後は「期間の定めなし」の従業員と同じ扱いとなります。
もっともこの場合は就業規則に規定がなくても、少なくとも2週間以上前に退職届を出さなければなりません。
更新の有無
契約期間が満期となった場合に、次回の更新があるかどうかを記載したものです。
主に以下の3つのうち、どれかが記載されます。
- 原則として更新する
- 更新の可能性がある
- 更新しない
長く働きたいと考えている方は、忘れずにチェックしておきましょう。
契約更新の判断基準
会社があなたとの契約更新をするかどうか判断する際に、考慮する事項を示します。
通常はあなたの能力や勤務状況はもちろん、会社の業務量や経営状況も判断の材料に含まれます。
「就業規則による」と記載できるケース
「労働条件通知書を渡されたけど、最低限の情報しか書かれていないから法令違反なのでは・・・」
というケースが稀にありますが、一概には法令違反だと判断できません。
なぜなら以下の2つの条件を両方とも満たす項目については、労働条件通知書で「就業規則による」と記載できることになっています。
- 就業規則があなたに手渡されること
- 就業規則において、あなたに適用される部分が明確に示されていること
労働条件通知書と一緒に就業規則を渡された場合、労働条件通知書はあっさりとしている場合があります。
細かい条件面は就業規則を見て確認しておきましょう。
10人以上の会社は就業規則がある
「うちの会社には就業規則がないから」
転職活動をしていると、就業規則がない会社と出会うこともあります。
従業員数が数名のスタートアップベンチャーなどは、とくに多いですね。
しかしながら、従業員数が10名を超えているにもかかわらず就業規則を定めていない会社は危険です。
以下の引用文をご覧ください。
常時十人以上の労働者を使用する使用者は、(中略)就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない。
引用元:WIKIBOOKS 労働基準法第89条
それなりの規模の会社なら、就業規則が存在しないなんてことはありえないのです。
法令違反に該当する注意すべきケース
労働条件通知書ではさまざまな内容が記載されていますが、なかには法令違反となるケースがあるので注意が必要です。
就業規則も含めて、違反となる内容がないかチェックしておきましょう。
罰金を払わせる制度
会社は従業員が規則に違反した場合、その程度によって従業員に賠償を求めることができます。
しかしながら事前に賠償するルールを決めておくことは、労働基準法16条に違反します。
使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない。
引用元:WIKIBOOKS 労働基準法16条
営業目標を達成できなかったり、遅刻しただけで罰金を取られるような会社は文句なしでブラック企業ですので、絶対に入社してはいけません。
なかには、退職する場合にも罰金を払うというルールが定められている悪質な会社もあるようですね。
もちろんこれらはすべて違反ですから、払う必要はありません。
また、具体的な金額が定められていなくとも、「遅刻したら罰金を払う」という記載があるだけで違反です。
くれぐれも気を付けてください。
「ノーワーク・ノーペイ」と罰金は別の話
遅刻や欠勤しても罰金を払う必要はありませんが、働かなかった分の時間は勤務した時間に含まれません。
このため、遅刻や欠勤した時間分の給料は減ってしまうのが一般的です。
これは「ノーワーク・ノーペイ」と呼ばれ、罰金とは少し毛色が異なります。
もっともこの場合、数分程度の遅刻ならば減少する金額は数百円程度ですし、有給休暇を使って午後出社にするというケースも多いです。
会社に損害を与えた場合に賠償を免れるわけではない
これまで解説した通り、会社があらかじめ罰金制度を設けることは違法です。
しかしあなたが職務上起こした問題で会社に大きな損害を与えた場合、どのような場合でも賠償を避けられるというわけではありません。
故意や悪ふざけ、ちょっと注意すれば防げる過失などを起こした場合は、会社から賠償を求められる可能性もあるので気を付けてください。
お金を貸して働いて返済させる
どうしてもお金が必要、というときは誰にだってありますよね。
なかには「会社からお金を借りたい!」という方も、いるかもしれません。
しかし会社が貸したお金を給料から天引きして返済させる行為は、「会社を辞めたくても辞められない」ことにつながる恐れがあるため禁止されています。
このため会社からお金を借りられる制度がある場合は、返済方法を必ずチェックしましょう。
なお、すでに働いた日数分の賃金を給料日前に受け取る制度については禁止されていません。
強制的にお金を積み立てさせる
最後にもうひとつ、会社は従業員に対して強制的にお金を積み立てさせることを禁止しています。
これは社員旅行や、従業員の福利厚生に貢献する内容であっても同様です。
ただし従業員が任意で預ける社内預金の場合は、法令の手続きに従い労働基準監督署に届け出ることで運用できることになっています。
入社するときは積立金の有無についても確認しておきましょう。
安心して働くために労働条件通知書の確認を
「入社前にこんなにたくさん確認すべき事項があるなんて、うんざり・・・」
と思った方もいるかもしれませんね。
しかしながら労働条件をきちんと確認しておかないと、あとで困るのはあなた自身です。
安心して働くためにも、入社を決意する前に細かく確認しておきましょう。
たとえば、面接官から「あなたにぜひとも長く働いてもらいたい」と熱く口説かれても、期間の定めがある従業員として働く場合、契約打ち切りのリスクが常につきまといます。
契約が更新されない可能性を考慮して、備えをしておかなければなりません。
内定先の企業から労働条件通知書を受け取ったら、必ず時間をかけて隅々までチェックしてくださいね。