給料日にきちんと給与が振り込まれないということは、従業員にとって死活問題です。
家賃や光熱費など、給料日に合わせて毎月の支払いを決めている方も多いですから、支払いが滞ることにつながってしまうことも。
貯金に余裕がない場合、生活そのものが難しくなってしまうこともあります。
そこで今回は、どのように未払い分給与を払ってもらうかの救済制度と手続方法を解説します。
労働者には定期的に給与を受け取る権利がある
会社員として働いている人は、ご自身の貴重な時間と労力を使って会社の指揮命令に従い働いています。
当然のことながら、労働の対価となる給与を受け取る権利がありますし、会社も給与を支払わなければなりません。
しかしながら何らかの事情で会社が給与を支払わない場合、労働者自身で積極的に権利を行使しなければなりません。
給与は本来、月1回以上支払われるべきもの
賃金の支払いには、労働基準法により「賃金支払いの五原則」と呼ばれている決まりがあります。
賃金については、労働基準法第24条において、
- 通貨で、
- 直接労働者に、
- 全額を、
- 毎月1回以上、
- 一定の期日を定めて
支払わなければならないと規定されています。(賃金支払の五原則)(中略)
毎月払の原則は、賃金支払期の間隔が開き過ぎることによる労働者の生活上の不安を除くことを目的としており、一定期日払の原則は、支払日が不安定で間隔が一定しないことによる労働者の計画的生活の困難を防ぐことを目的としています。
このように給与は、本来月1回以上、決められた日に全額が支払われるべきものです。
しかし給与が支払われなければ、生活が成り立ちません。
まずは会社に未払い給与の支払いを要求する
会社の状況にもよりますが、いきなり外部機関へ相談するのではなく、まずは会社に対して支払を求めることが一般的です。
もし労働組合があるようならば、組合を通じて主張すると良いでしょう。
もっとも以下のような場合は、会社に対して支払を求めても時間の無駄という場合がありますから、この手続きは省略してもかまいません。
- 明らかに支払いの意思が無い場合
- 会社にお金が無いことが明らかな場合
裁判抜きで取り立ても可能だが現実的には困難
給与を受け取る権利は「労働債権」と呼ばれ、いくつかの特権があります。
- 労働債権は一般先取特権であるため、裁判抜きで会社に対し取り立てることが可能
- 取引先の債権等よりも優先される
特に裁判抜きで取り立てが可能なことは、労働者にとって大きなメリットに見えます。
しかしいざ実行するとなると、簡単な方法ではありません。
以下の書類を用意した上、差し押さえしたい不動産の所在地を管轄する地方裁判所に申し出る必要があります。
- 申立書
- 4,000円分の収入印紙(郵便局等で購入できます)
- 社内規定類(就業規則や賃金規定等)
- 過去の給与明細書
なかでも「何を差し押さえるかを指定しなければならない」という点は大きなハードルです。
なぜなら、会社がどのような資産を保有しているか、知っておかなければならないためです。
それでは不動産を差し押さえれば良いと思う方も多いと思いますが、以下の問題があり、現実的には実行が難しい場合も多いです。
- オフィスを借りている(賃貸している)会社が圧倒的に多い
- 銀行からお金を借りている場合、建物は銀行等による抵当権が付けられていることが多い
未払賃金の立替払制度の利用も検討を
ここまでで説明した通り、未払いの給与を法的に支払わせることはなかなか難しいのが現実です。
しかし給与をきちんと支払えない会社には、事実上倒産状態にある会社も少なくありません。
このような会社で働く人に対して、「独立行政法人 労働者健康安全機構」による「未払賃金の立替払制度」が用意されています。
未払賃金の立替払制度は、労働者とその家族の生活の安定を図る国のセーフティーネットとして、企業倒産に伴い賃金が支払われないまま退職した労働者に対し、「賃金の支払の確保等に関する法律」に基づいて、その未払賃金の一部を政府が事業主に代わって立替払する制度です。
どのような制度なのか、順を追って解説していきます。
立替払制度を利用できる人
未払賃金の立替払制度を利用できる人は、以下に該当する方となっています。
- 勤め先が1年以上事業活動を行っていたこと。
- 勤め先が倒産したこと(下記のいずれかに当てはまる場合)。
①法律上の倒産(破産、特別清算、会社整理、民事再生又は会社更生の手続に入った場合)
この場合は、管財人等に倒産の事実等を証明してもらう必要があります。
②事実上の倒産(中小企業について、労働基準監督署長が倒産していると認定した場合)
この場合は、労働基準監督署に認定の申請を行ってください。- 労働者がその勤め先を既に退職していること。
この制度を受けるためには、退職時期にも指定があります。
法律上の倒産の申立日、または事実上の倒産の認定申請日を基準とし、その6ヶ月前の日から1年6ヶ月後の日までに退職した人が対象となります。
従って倒産の6ヶ月前の日よりも前に離職した人は、この制度での救済対象とはなりません。
立替払いされる金額
立替払いの対象となる未払賃金は、その支払日が退職日の6ヶ月前の日から立替払請求の前日までの範囲にあるもので、定期賃金または退職手当に属するものとなっています。
実際に立替払される金額は、未払賃金総額の8割となっています。
立替払請求ができる未払賃金総額の下限は2万円となっていますから、立替払を受けることができれば最低でも1万6千円の支払いを受けることができます。
一方、未払賃金の上限金額は年齢によって異なり、以下の金額となっています。
- 30歳未満の場合は、110万円(立替払の上限額は88万円)
- 30歳以上45歳未満の場合は、220万円(立替払の上限額は176万円)
- 45歳以上の場合は、370万円(立替払の上限額は296万円)
立替払いの申請方法
申請方法は会社が倒産しているかどうかで異なります。
それぞれの方法について説明していきましょう。
会社が倒産した場合
会社が破産、特別清算、民事再生、会社更生のうち、いずれかの手続きをとった場合が対象となります。
この場合は、まず労働者健康安全機構のWebサイトから、「未払賃金立替払請求書・証明書」をダウンロードしましょう。
ダウンロードできない場合は、お近くの労働基準監督署にも用紙があります。
用紙を入手できたら、以下に示す者に「未払賃金立替払請求書・証明書」を送付し、未払賃金の金額等、立替払請求の必要事項についての証明を依頼します。
- 破産の場合は、破産管財人
- 特別清算の場合は、清算人
- 民事再生の場合は、再生債務者や管財人
- 会社更生の場合は、管財人
証明を受けたら、用紙の左側にある立替払請求書等に必要事項を記入し、右側の欄の証明書と切り離さずに労働者健康安全機構に送付します。
会社が倒産していない場合
この場合は、まず労働基準監督署で申請を行います。
お勤めの会社が事業活動を停止し、事業再開の見込みがなく、賃金も支払われないという状態の認定をするよう申請します。
申請は誰かが行えばよいですので、対象となる退職者全員が行う必要はありません。
労働基準監督署から上記の状態の通知書を受け取ったら、改めて立替払請求の必要事項について、確認の申請を行います。
立替払の確認申請は、対象者が各自で行う必要があります。
労働基準監督署から確認通知書の交付を受けたら、対象者は立替払請求書等に必要事項を記入し、証明書と切り離さずに労働者健康安全機構に送付します。
迷ったときの相談先
未払賃金の立替払請求方法は、ほとんどの人が不慣れだと思います。
手続きについてわからないことが出てくる場合もあるでしょう。
そのような場合は、川崎市にある独立行政法人 労働者健康安全機構などへ出向くか、または電話で相談を受け付けています。
相談は平日の9時15分から17時までの受付ですので、注意が必要です。
給与未払いには労働者の権利をきちんと行使すべき
労働者にとって給与が支払われないことは、生活の危機に直結します。
会社がどのような状況だったとしても、給与を支払ってもらえるように働きかけるのは当然といえるでしょう。
そもそも給与が支払われないのならば、会社に労務提供する意味がありません。
会社が破産するような場合は特に、取引先への支払いも済ませていない場合も多いものです。
場合によっては消費者から前金を受け取っておいて、対価としてのサービスや商品の提供をしない会社もあり、消費者にも被害が及んでいる場合もあります。
このようなケースの場合、労働者といえども会社の従業員であった者として、権利を主張するのはためらわれる場合もあるでしょう。
しかし、労働債権は取引先への支払いや消費者への補償などよりも優先されると法令で決まっています。
また元従業員といえども、給与を支払わないことは倒産による被害を拡大することになりますから、このようなことは防がなければなりません。
あなたの生活はあなた自身で守らなければならないものですから、権利をきちんと行使し、働いた分の給与をできるだけ確保する努力が大切です。