転職サイトで興味のある会社を見つけたけれど、面接で詳しい話を聞いたら社会保険未加入という事実が判明。
あなたはその会社へ入社しますか?
今の時代、有名な転職サイトに掲載している会社のほとんどは社会保険にきちんと加入しています。
ただ、ごくまれに社会保険未加入の会社が紛れていることも。
先に結論をお伝えしておくと、社会保険未加入の会社に転職するのはとても危険です。
このページでは転職先を選ぶときに知っておくべき社会保険の基礎知識について詳しく解説しています。
近いうちに転職を考えている方は、入社すべき会社を間違えないためにも、ぜひ参考にしてみてください。
社会保険の種類と加入すべき条件
そもそも社会保険とはどういうものなのか、あなたはうまく説明できますか?
まずは社会保険の基礎的な知識からおさらいしておきましょう。
最初に知っておくべきは、「社会保険」という名称の保険は存在しないということ。
一般的に以下5つの総称として、社会保険という言葉が使われています。
- 健康保険
- 厚生年金保険
- 介護保険
- 雇用保険
- 労災保険
雇用保険と労災保険の2つは「労働保険」と呼ぶこともあります。
ではそれぞれの特徴と加入条件について順に見ていきましょう。
健康保険
まずはもっとも身近な存在ともいえる健康保険について。
日本には国民皆保険制度があるため、原則としてすべての人が保険に加入しています。
風邪を引いたり、ケガをして入院したときなど、高額な医療費の一部を国や自治体が負担してくれる制度です。
会社員として勤めている方は会社経由で健康保険に加入し、保険料の半分を会社が負担します。
保険証を見てみると、会社の名前が記載されていますよね。
一方で個人事業主(自営業やフリーランスの方など)として働いている方は、国民健康保険に加入しています。
正社員は原則として保険加入が必須
健康保険の加入条件は以下のように定められています。
強制適用事業所は、次の(1)か(2)に該当する事業所で、法律により、事業主や従業員の意思に関係なく、健康保険・厚生年金保険への加入が定められています。
(1)次の事業を行い常時5人以上の従業員を使用する事業所
a製造業b土木建築業c鉱業d電気ガス事業e運送業f清掃業g物品販売業h金融保険業i保管賃貸業j媒介周旋業k集金案内広告業l教育研究調査業m医療保健業n通信報道業など(2)国又は法人の事業所
常時、従業員を使用する国、地方公共団体又は法人の事業所引用元:全国健康保険協会 強制適用事業所
一般的な会社で正社員として働く方は、(2)に該当します。
強制適用事業所という記載があるように、従業員を雇用する会社は健康保険に加入しないといけません。
事業主や従業員の意思は関係ない、と書かれている点も重要なポイントですね。
厚生年金保険
続いて厚生年金について。
個人事業主の方やフリーター、無職の方だと国民年金に加入しますが、会社勤めの方は基本的に厚生年金に加入します。
老後に年金を受け取れたり、万が一事故などで障害を負ってしまったときにも障害年金を受け取れます。
さらに加入者に万が一のことがあったときには、残された遺族は遺族年金を受け取ることが可能です。
厚生年金は会社が半額を負担してくれるということもあり、国民年金だけに加入していた方より老後に受け取れる金額が大幅に増えます。
実際に受け取れる金額は加入者の収入や加入期間によって差は出るものの、2倍近い差が出るケースもあります。
「老後にお金の心配をしたくない・・・」
と考えるなら、厚生年金に加入しておくのが正解です。
加入条件は健康保険と同じ
厚生年金の加入条件は先ほどご紹介した健康保険とまったく同じで、正社員として勤める方は原則として加入が必須。
店舗などの小規模事業所でも、従業員が5名以上いるなら加入は必須です。
厚生年金保険の適用事業所となるのは、株式会社などの法人の事業所(事業主のみの場合を含む)です。また、従業員が常時5人以上いる個人の事業所についても、農林漁業、サービス業などの場合を除いて厚生年金保険の適用事業所となります。
引用元:日本年金機構 厚生年金の適用事業所
「年金なんてきっといつか破綻するだろうから、私は加入したくない」
なんてことをいう人もいますが、会社員として働くなら厚生年金への加入は避けられないと考えましょう。
仮に会社員を辞めてフリーランスとして独立したとしても、国民年金からは逃れられません。
介護保険
若い方には馴染みがなさそうですが、40歳になると介護保険への加入も義務づけられます。
介護を必要とする方へ適切なサービスを提供できるように、協力して保険料を負担する制度です。
健康保険や厚生年金と同じように、介護保険も会社と折半で保険料を負担します。
訪問介護やデイサービスを利用するときや、いわゆる老人ホームに入居するときなどに介護保険を利用します。
介護保険の細かい説明は省きますが、40歳になると給料から天引きされる金額が少し増えると認識しておきましょう。
雇用保険
社会保険という言葉には雇用保険も含まれるものと考えましょう。
もっともイメージしやすいものは失業保険でしょうか。
雇用保険に加入していれば、万が一会社が倒産したときには失業保険を受け取れます。
加入条件も従業員を雇用する会社はすべて適用となっています。
事業主は、雇用保険法に基づき、適用基準を満たす労働者について、事業主や労働者の意思に関係なく、被保険者となった旨を公共職業安定所(ハローワーク)に届け出なくてはなりません。(中略)
雇用保険においては、労働者を雇用する事業は、その業種、規模等を問わず、すべて適用事業であり、当然に雇用保険の適用を受け、また、適用事業に雇用される労働者は雇用保険の被保険者となります。
引用元:厚生労働省 雇用保険の適用
健康保険と同様に、事業主や労働者の意思は関係ないと明記されていることを覚えておきましょう。
失業保険について詳しく知りたい方は以下の記事もあわせてご覧ください。
労災保険
最後にもうひとつ、労災保険という制度もあります。
正式名称は労働者災害補償保険で、仕事中や通勤中に事故に巻き込まれてケガをしてしまったときなどに給付金を受け取ることが可能。
具体的には以下のような給付金制度があります。
- 療養補償給付
- 休業補償給付
- 傷病補償年金
- 障害補償給付
- 介護補償給付
- 遺族補償給付 など
オフィスワークがメインだと仕事中にケガをするリスクは低いものの、たとえば重たい荷物を運んだり、大型の工作機械を動かすような職場は常に危険と隣り合わせ。
事故やケガがないのが一番ではあるものの、労災保険に加入していれば万が一のときも安心です。
また、雇用保険と同じく、従業員を雇用する会社はすべて加入が義務付けられています。
労災保険の保険料は会社側が全額を負担するため、給料から天引きされることはありません。
手元に給与明細があればチェックしてみてください。
社会保険未加入の会社が存在する理由
ここまでのご説明でおわかりいただけたと思いますが、すべての会社員は原則として社会保険の加入が必須です。
にもかかわらず、従業員を雇っているにも関わらず社会保険未加入のまま業務を続けている企業も存在します。
なぜ社会保険に加入しないのか、その理由を探っていきましょう。
保険料の負担が大きい
企業が社会保険への加入を渋る理由のほとんどは、コストを増やしたくないから。
健康保険や厚生年金などに加入すると、従業員に支払う給料のほかに法定福利費(企業が負担する社会保険料)が発生します。
この法定福利費が意外と高く、毎月の人件費がおおよそ15~20%ほどアップします。
「たった15%程度なの?」
と思う方もいそうですが、従業員数が多くなると毎月の負担額は数十万円~と膨れ上がります。
資金繰りが苦しい状態だと、削れるコストは少しでも削りたいのが本音です。
つまり社会保険に未加入ということは、社会保険料を負担できないほど切羽詰まった状況ということ。
そんな先行き不透明な会社に転職したいですか?
試用期間も社会保険加入は必須
「試用期間中は社会保険に入れないって言われた」
というケースもまれにありますが、試用期間中も社会保険への加入は必須です。
試用期間だろうと何だろうと、雇用していることに変わりはありません。
たった数ヶ月の試用期間中の社会保険料すらケチろうとする会社なんて、長く働いても明るい未来はないでしょう。
万が一採用担当者から打診があったときは、即刻入社を断ってください。
悪質な会社も存在する
なかにはそれなりに会社が儲かっているのに、あえて社会保険未加入の状態を続けている会社も存在します。
たとえば社会保険料は負担しないのに、役員報酬だけはたんまりと支払っているような悪質な会社。
従業員には社会保険未加入のまま働かせて、役員は経費を使いたい放題という最低な会社もありました。
完全に法令違反ですから、ブラック企業と認定してもよいでしょう。
社会保険にすら加入できない状況だと、ろくに残業代も支払われないでしょうし、有給休暇なんて夢のまた夢。
特別な事情がない限り、すぐにでも別の職場を探すべきです。
社会保険未加入の会社で働くデメリット
「でも社会保険に加入すると毎月の手取りが減ってしまうし、未加入でも問題ないのでは?」
と考える人もいますよね。
それなりに稼いでいる人だと、毎月10万円以上の社会保険料が給料から天引きされてしまいます。
ちょっとでも手取りを増やしたいという気持ちは理解できますが、社会保険未加入のまま働き続けることはデメリットばかり。
具体的にどんなデメリットがあるのか、詳しく見ていきましょう。
もしものときのリスクが大きい
まず挙げられるのは、もしものときのリスクが大きすぎるということ。
通勤中にケガをしても、労災保険に加入していなければ給付金は受け取れませんし、会社都合でクビにされても雇用保険に未加入だと失業手当すらもらえません。
上司からの執拗なパワハラで体調を崩してしまい、しばらく休職することになったときも、健康保険に加入していれば傷病手当金を申請できます。
傷病手当金は国民健康保険では利用できない制度のひとつ。
何が起こるかわからない時代ですから、毎月少しずつ負担してリスクに備えておくことは決して間違いではありません。
将来受け取れる年金が少ない
この記事の前半でもご説明したように、厚生年金に未加入の状態が長く続くと将来受け取れる年金が減ってしまいます。
自営業やフリーランスの方がどれだけ会社員の厚生年金をうらやましがっているか、あなたは知るべきです。
会社員として働いているのに厚生年金に未加入だなんて、ただ損をしているだけ。
「年金なんてなくても貯金がたっぷりあるから老後も安心!」
という恵まれた方なら気にする必要はないかもしれませんね。
個人の負担が大きくなることも
「社会保険に未加入のほうが手取りが増える」
と思っている人は多いですが、毎月の負担額が増えてしまうケースも考えられます。
たとえば国民健康保険は所得に応じて保険料が変動する仕組みです。
さらにお子さんがいる方だと、被保険者の人数によっても保険料が変わります。
会社で健康保険に加入していると、子供が2人でも10人でも保険料は変わりません。
しかしながら国民健康保険の場合、子供の人数が増えるほど保険料は上がっていきます。
ただし、最高上限額が設定されているため、際限なく保険料が上がっていくことはありません。
負担額は人それぞれ異なりますが、会社員として働くなら社会保険料の負担は避けられないものと受け入れましょう。
社会保険のトラブルで相談すべき窓口
「社会保険に未加入ということを知らずに入社してしまった・・・」
「社会保険に入らせてほしいと上司に相談しても無視される・・・」
などのトラブルに万が一巻き込まれてしまったときは、すぐさま各相談窓口に駆け込みましょう。
それなりの規模の会社で社会保険未加入を続けている会社は、明らかに悪質です。
個人の力で解決するのはほぼ不可能でしょうから、早めに専門窓口に相談してください。
全国健康保険協会
正社員として働いているのに、国民健康保険に加入したままのときは全国健康保険協会に相談してみてください。
各都道府県に支部があるので、以下のリンク先から連絡先を調べてみましょう。
年金事務所
厚生年金に加入させてもらえないときは、最寄りの年金事務所(日本年金機構)に相談しましょう。
年金事務所で被保険者資格の確認を申請すると、勤め先が加入条件を満たしているか調べてくれます。
さらに年金事務所から会社に対して加入手続きの指導が入るため、余程のことがない限りは加入できるはずです。
各地の相談窓口は以下リンク先からお調べください。
ハローワーク
労働保険(雇用保険と労災保険)関連のトラブルは、管轄のハローワークで相談しましょう。
雇用保険未加入の状態で働かされたとしても、2年間さかのぼって保険料を納めれば加入できます。
以下のリンクから各地域のハローワークを調べられるので、会社の所在地を管轄するハローワークを探してみてください。
総合労働相談コーナー
社会保険に未加入の会社は、ほかにもさまざまなトラブルを抱えている可能性が高いです。
サービス残業やパワハラ、セクハラなどが常態化しているようなときは、厚生労働省が管轄する総合労働相談コーナーで相談してみるのがおすすめです。
労働問題に強い弁護士に相談するという手もありますが、相応の費用がかかることを覚悟しましょう。
社会保険未加入で入社するときの条件
社会保険未加入の会社で働くことはデメリットしかないとご説明しましたが、未加入でも入社を検討すべき状況が一部存在します。
言い方を変えれば、これらの条件を満たしていなければ社会保険未加入の会社に転職することは止めておきましょう。
明確な理由がない限り、高すぎるリスクを背負い込む必要はありません。
新たに会社を立ち上げるとき
まず挙げられるのは、新たに会社を立ち上げるときです。
あなた自身が代表取締役になる場合もあれば、仲間と一緒に法人を設立するケースもあるでしょう。
資本金がたっぷりある状態でスタートできるならまだしも、創業直後はキャッシュに余裕がない会社も多いです。
売り上げが軌道に乗るまでは、固定費を削減するために社会保険への加入を遅らせることもあるでしょう。
なるべく早く加入すべきではありますが、社会保険料の支払いで資金繰りに苦しむような状況も避けなくてはいけません。
スタートアップに転職するとき
同じように創業間もないスタートアップへ転職するときも、しばらく社会保険未加入のまま働くケースがあります。
ただし、創業から2~3年経っているにも関わらず、いまだに社会保険への加入を渋っている会社は少々危険です。
社会保険料すら負担できないなんて、ビジネスモデルに限界があるということ。
毎日必死に働いたところで、大きく飛躍することはないでしょう。
ただでさえスタートアップで働くことはリスクが大きいので、少なくとも雇用保険や労災保険には早めに加入すべきです。
社長を絶対的に信頼できるとき
社長があなたの父親だったり、10年以上の付き合いがある友人の会社など、絶対的に信頼できるなら社会保険未加入でも力を貸してあげてもいいかもしれません。
とはいえ、どれだけ信頼できる相手だとしても、会社を大きくしていくつもりなら社会保険への加入は必須と考えてください。
いつまでも社会保険に加入する気配がなければ、しかるべきタイミングで社会保険への加入を直談判しましょう。
社会保険未加入のままでは人材採用もうまくいきませんし、何よりもあなた自身がリスクを背負い続けたまま働くことになります。
信頼できる相手だからこそ、ときには本音でぶつかっていくことも大切ですよ。
社会保険完備は転職先選びの最低条件
転職サイトなどで中途採用の求人を探すときは、社会保険加入(社会保険完備や社保完備など)の記載を忘れずにチェックしましょう。
設立からそれなりの年数が経っていて、数十名を超える従業員が働いている会社なら、社会保険に加入しているのは当然のこと。
創業したばかりのスタートアップだと社会保険未加入の会社も一部存在しますが、特別な事情がない限り転職すべきではありません。
転職サイトやホームページなどで明確な記載を見つけられないときは、面接の際に必ず確認しましょう。
最悪なのは、入社してから社会保険未加入だったことに気づくこと。
あなた自身がリスクを背負うことになるため、転職先を探すときは社会保険加入を最低条件と考えてください。
くれぐれも入社すべき会社を間違えないでくださいね。