働く妊婦は、ただでさえハンディキャップを背負っています。
本来ならば助け合うのが理想ですが、残念ながら【マタハラ】といわれる嫌がらせが行われる職場も少なくありません。
一方、職場では妊婦の状況に応じて医師が指示する措置を講じなければなりません。
医師の指示内容を伝えるため、母性健康管理指導カードというものが用意されていることを知っていますか?
このページでは母性健康管理指導カードがどういったものなのか、マタハラの概要とともに詳しくご説明します。
妊婦しながら働く女性の悩み
妊娠すると前半はつわり、後半は胎児の成長により身重となりますから、妊娠していないときと同じように働けるとは限りません。
本来であればこのような働く妊婦に対しては、いたわりの心をもって接するべきです。
しかし現実では以下の通り、妊婦に対する職場からの風当たりが強い場合も少なくありません。
マタハラとはどういう行為か
残念ながら妊婦に対して、妊娠していることを理由とした差別(いわゆるマタハラ)が行われる職場もあります。
マタハラとは、妊娠や出産を理由として、以下のような不利益を受けることをいいます。
- 解雇されたり、契約更新を拒否される
- 正社員からパートになることを強要される
- 減給される
- 法令で定められた妊婦に対する制度を利用することへの嫌がらせ
- 妊婦や出産等を理由とした嫌がらせ
2016年度に、労働局の雇用環境・均等部に寄せられたマタハラについての相談数は7,344件にのぼります。
これらは同じように働けなくなった者に対する、いじめとも呼べる行為といえるでしょう。
実際に報告されているマタハラの例
実際のマタハラには、以下のような例があります。
- 妊娠したことを機に、退職を求められる
- 医師から仕事を休むよう指示されているにもかかわらず、出勤を強要する
- 妊婦に対して、上司の一方的な判断で(妊婦の希望を聞かず)職務内容を変える
- 会社が用意している妊婦向けの制度を利用させない
また東京都の調査では、以下のような事例も報告されています。
妊娠により立ち仕事を免除してもらっていることを理由に、「あなたばかり座って仕事をしてずるい!」と同僚からずっと仲間外れにされ、仕事に手がつかない。
先輩が「就職したばかりのくせに妊娠して、産休・育休をとろうなんて図々しい」と何度も言い、就業意欲が低下している。
引用元:東京都 平成28年度 職場におけるハラスメント防止ハンドブック
職場としてこれらの行為は、個人的ないざこざとして片付けるわけにはいきません。
2017年1月1日に施行された「改正男女雇用機会均等法」により、従業員間のいざこざであっても、マタハラに当てはまれば法令違反となる可能性があります。
母性健康管理指導カードとは
母性健康管理指導カードは妊娠中や出産後の女性が、職場で適切な健康管理を受けられるようにするため、厚生労働省が定めたものです。
略して「母健連絡カード」とも呼ばれ、以下の点においては診断書と同じ効力があります。
- 妊婦の健康状態を診断すること
- 妊婦の健康を守るために、必要な指導をすること
- 妊婦の健康状態を踏まえ、働く上で適切な措置を求めること
どこで入手できるのか、どのように活用すればいいのか、順に見ていきましょう。
入手方法
母性健康管理指導カードは、厚生労働省のWebサイトや厚生労働省の委託事業である「女性にやさしい職場づくりナビ」Webサイトからダウンロードできます。
また医療機関や職場に備え付けている場合があるほか、母子手帳に添付されていることも多いです。
母子手帳をお持ちであれば、一度確認してみてください。
記載内容
母性健康管理指導カードには、以下の内容が記載されます。
- 妊娠何週目か、また出産予定日
- 現在の症状
- 医師が必要と認める措置と、措置が必要な期間
- 指導事項を守るための措置申請書
1番から3番に該当する欄には、医師が記入します。
4番の「指導事項を守るための措置申請書」については妊婦が自身で記入し、事業主に提出します。
発行費用
母性健康管理指導カードは、紙そのものの入手は無料、またはプリント代程度で済みます。
しかし医師に必要事項を記入してもらうことについては費用がかかります。
発行費用は医療機関によりまちまちですが、診断書よりも安価な料金で発行するように指導されており、2,000~4,000円程度が目安となります。
なお症状などが変わったことにより職場に求める措置内容が変わる場合は、その都度発行してもらう必要がありますから、費用もかかります。
母性健康管理指導カードの活用方法
母性健康管理指導カードを利用することで診断書の代わりとなり、妊婦の健康管理と仕事を両立させることが可能となります。
就業上の配慮を受ける
妊婦はその状況に応じて、以下のような就業上の配慮を受けるように指示される場合があります。
- 重いものを持たない
- 立ち作業など、長時間同じ姿勢を続ける業務に携わらない
- ストレスや緊張を多く感じる作業の制限
- 時短勤務
- 時差通勤
- 寒い場所での作業の制限
医師から上記のような指示があった場合、職場に対しての証明書類として、母性健康管理指導カードを用いることができます。
必要な休暇を取る
労働基準法では、妊婦の産前・産後休業として、以下のように定められています。
- 産前休業は、妊婦が請求した場合に6週間(多胎妊娠の場合は14週間。出産日は産前休業に含む)
- 産後休業は8週間(妊婦が請求した場合は6週間まで短縮可)
しかし、これ以外に休暇が取れないわけではありません。
以下の症状が出た場合は、休暇を取るよう指示されることとなるでしょう。
- 妊娠悪阻、全身に及ぶむくみ(入院が必要)
- 切迫流産や切迫早産(入院が必要となる場合がある)
- 妊娠貧血、重症の蛋白尿や高血圧(通常は自宅療養)
このように休暇が必要な症状が出た場合においても、医師の指示のもとで休暇を請求するための証明書類として、母性健康管理指導カードを用いることができます。
職場は妊婦に配慮する義務がある
男女雇用機会均等法及び労働基準法により、職場は妊婦が働くにあたり、その状況に応じて以下の措置を講じなければなりません。
- 健康診査受診のための時間の確保
- 医師等の指導事項に従った業務軽減措置(母性健康管理指導カードの利用など)
- 産前産後休業
- 危険有害業務の就業制限
- 職場における妊娠・出産等に関するハラスメントの防止措置を講じること
もし職場が必要な措置をとらず、是正指導にも応じない場合は企業名が公表される場合もあります。
妊娠への配慮がされない場合の対処法
職場が妊婦に配慮することは法令で義務付けられていることは、さきに説明した通りです。
しかし職場の無理解や、従業員どうしの人間関係などにより、配慮がされない場合もあるでしょう。
この場合は一人で悩まず、相談することが大切です。
相談先の一例として、以下のようなものがあげられます。
- 職場の相談窓口
- 都道府県労働局の雇用環境・均等部(または均等室)
- 弁護士
- 労働組合がある職場の場合は、組合の相談窓口
職場に相談できそうな相手がいない場合は、外部機関の専門家を頼ってみてください。
健康第一ですから、くれぐれもひとりですべてを解決しようとしないでくださいね。
妊娠中は職場に必要な措置を求めよう
職場は代わりがいますが、おなかの子どもを大切にできるのはあなただけです。
職場ではマタハラを放置してはいけないことになっていますから、個人的ないざこざであっても、快適に働くために必要な措置を求めましょう。
また医師から指示されたことは、母性健康管理指導カードを活用して、速やかに上司に伝えることが大切です。
できるだけ働くことも大切ですが、必要な休暇を取ることも大切です。
もし職場が必要な措置を取らない場合は、早めに社内や社外の窓口などに相談しましょう。
体を十分にいたわって、元気な赤ちゃんを生んでくださいね。