残業代、今まできちんと支払われていましたか?
時間外労働分の賃金を全額支払うのが当然ではあるものの、さまざまな理由をつけて残業代を支払おうとしない企業は未だに多いですね。
本来もらえるはずだった金額を計算すると、未払い残業代が100万円を超える方も少なくありません。
「今月末で退職だけど、今まで残業代なんて1円も支払われていない・・・」
「前の職場はサービス残業が当たり前だったけど、もう退職しちゃったし・・・」
という方も多いですが、退職後2年以内なら未払い残業代は請求できるんです。
ただし、いくつか注意点もあります。
このページでは、未払い残業代を取り戻すための基礎知識について詳しく解説します。
残業代の支払いに不満を感じている方は、ぜひ参考にしてみてください。
未払い残業代は退職後2年で時効となる
未払い残業代とは、従業員から見れば会社に対する債権のこと。
言い換えれば、会社に対して取り立てができる金銭のことです。
一般的な債権の時効は5年間ですが、未払い残業代などの労働債権の時効はたったの2年。
時効を過ぎても請求自体はできますが、「時効なので支払わない」といわれてしまえばそれまでです。
日が経つごとに請求金額は減っていく
未払い残業代の時効は退職後2年でなく、支払われた時点から2年という点にも注意が必要です。
つまり、月々の給与の不足額を請求する行為となるため、2年前までに支払われた給与の分までしか請求できないということ。
つまり請求するタイミングが1ヶ月遅れると、その分取り戻せる金額は減ってしまいます。
退職前から準備をはじめて、退職後すぐに請求できればベスト。
すでに退職から日が経っている方は、早めに動き出すことをおすすめします。
時効を主張して有利になるのは会社側
時効は自動的に適用されるものではなく、時効を主張してはじめて有効となります。
従って未払い残業代が発生してから2年を経過した後でも、会社側に支払う意志があれば取り戻すことは可能です。
とはいえ実際に、時効を過ぎてから支払ってもらえるケースは滅多にないでしょう。
それなりの会社であれば顧問弁護士がついていますし、経営者も労働問題について多少の知識を身につけています。
会社側としては極力コストを抑えたいのが本音。
退職した人間に喜んでお金を支払う会社なんて、世界中を探し回っても見つからないかもしれません。
時効を一時的に中断させる方法
未払い残業代の時効はたったの2年ですが、時効を中断する方法もあります。
配達証明付きの内容証明郵便で会社に請求書を送付すれば、時効を半年間延長できます。
ただし、この方法による時効の延長は1回しかできないことに注意してください。
半年を長いと感じるか、短いと感じるかは人それぞれですが、法的手段の準備を進めているとあっという間に時間は過ぎていくものです。
また、会社側から「一部だけ入金するので、残額は後日にして欲しい」と提案があったときも時効は止まります。
すんなり支払いを認めることは稀ですが、必ず書面で証拠を残しておくことをおすすめします。
電話や口頭だけのやりとりだと、「そんなことは言ってない」と後でもめることになりかねません。
どうしてもメールや書面でのやりとりを拒否される場合、会話を録音しておくのも効果的ですよ。
時効を5年にする検討も進んでいる
未払い残業代を含めた賃金支払いに関する時効を、一般の債権と同じように5年に延長する検討が労働政策審議会で進められています。
厚生労働省は働き手が企業に対し、未払い賃金の支払いを請求できる期間を延長する方針だ。労働基準法は過去2年にさかのぼって請求できるとしているが、最長5年を軸に調整する。
引用元:日本経済新聞 未払い賃金請求、最長5年に サービス残業抑制へ検討
もし時効が5年間に延長されれば、より高額の未払い残業代が支払われる人も多くなるでしょう。
経営者からは反対意見も出ているようですが、そもそも残業代は所定の給料日に支払っておくべきものです。
残業代を支払おうとしない悪質な会社は、どんどんつぶれてしまえばいいんです。
時効の延長は労働者だけではなく、まっとうな企業が事業を進めやすくなるという点で良い政策といえるでしょう。
今後のニュースに注目です。
残業時間を理解するための基礎知識
そもそも残業とは何なのか、あなたはわかりやすく説明できますか?
未払い残業代を請求するためには、大前提として残業のことを正しく理解しておかないといけません。
「社会人なら知っていて当然でしょ」
という意見もありますが、「労働基準法・・・? なにそれ?」という人も多いのが実情です。
すでに理解している方はこのパートを飛ばしていただいて構いませんが、知識に不安を感じる方は改めて基礎知識をおさらいしておきましょう。
労働時間に関する基本ルール
法定労働時間とは1日何時間か、すぐに答えられますか?
まずは労働時間の基本ルールから見ていきましょう。
- 使用者は、原則として、1日に8時間、1週間に40時間を超えて労働させてはいけません。
- 使用者は、労働時間が6時間を超える場合は45分以上、8時間を超える場合は1時間以上の休憩を与えなければいけません。
- 使用者は、少なくとも毎週1日の休日か、4週間を通じて4日以上の休日を与えなければなりません。
引用元:厚生労働省 法定の労働時間、休憩、休日
朝9時が始業開始であれば、8時間後である17時が定時になるということです。
お昼休憩を1時間挟むことで、18時を定時としている会社もありますね。
会社によって始業時刻や定時は異なるので、就業規則などを見直して、まずは定時が何時なのかを確認してみてください。
時間外労働には36協定が必要
また、残業や休日出勤をするためには時間外労働協定(通称:36協定)が必要です。
36協定(サブロク協定)と呼ばれる理由は、労働基準法第36条に時間外労働に関するルールが定められているため。
設立間もないスタートアップ企業ならまだしも、それなりの会社であればほぼ間違いなく36協定が存在するはずです。
ただし、36協定があるからといって無制限に残業ができるわけではありません。
1ヶ月で45時間、1年で360時間まで、という限度があります。
もしあなたの年間残業時間が360時間を超えていたなら、完全に法令違反だということ。
時間外労働の限度に関する基準については、以下のリンク先で詳しい資料をご覧になれます。
残業代は1.25倍の割増になる
残業代が割増で計算されることは知っていますよね。
時間外労働をさせる場合、割増賃金の支払が必要になります。時間外労働に対する割増賃金は、通常の賃金の2割5分以上となります。
引用元:厚生労働省 法定労働時間と割増賃金について教えてください。
あなたの1時間あたりの賃金が1,000円なら、時間外労働分は1時間あたり1,250円になるということ。
25%以上というルールなので、残業1時間につき1,500円払っても問題はありませんが、そんな会社はどこにもないでしょう。
また、1ヶ月で60時間を超えた残業については5割以上と定められています。(ただし中小企業は除く)
それと、1時間あたりの賃金がいくらになるかは、あなたの基本給次第。
給与明細が手元にあれば、見返してみてください。
このとき、家族手当や通勤手当などは除外した上で計算するルールになっています。
詳しい計算方法は以下リンク先の資料をご確認ください。
勘違いしやすい時間外労働の考え方
残業に関する基本的な知識についてご説明しましたが、いざ残業時間を計算するとなるとつまづいてしまう人も多いですね。
「タイムカード上では毎日17時で帰ってるんだよなぁ・・・」
「9時始業だけど、いつも8時半から朝礼があったなぁ・・・」
どこからどこまでを労働時間としてカウントすべきかはとてもややこしく、迷ってしまうのも無理はありません。
ここからは、時間外労働を考えるときに勘違いしやすいポイントについてご説明します。
気になる内容がありましたら、それぞれ別途まとめている詳細記事もあわせてご覧ください。
タイムカード以外でも残業は証明できる
まずは基本中の基本として、労働時間はタイムカード以外でも証明可能です。
ひどいところだと、そもそもタイムカードすらつけていないとう職場もありますよね。
タイムカードのコピーが手元にあればベストですが、一般的に機密情報とみなされるため持ち出しを禁止している企業がほとんど。
ではどうやって労働時間を証明すればよいのかというと、出勤時間や退勤時間をあなた自身で記録しておけばよいのです。
無料で使えるスマホアプリもありますし、手書きのメモも効力を発揮します。
パソコンの起動時間のログや、メールの送受信記録を残しておくのも効果的ですよ。
朝礼や清掃時間も労働時間に含まれる
「始業時間は9時なのに、毎朝8時からオフィスの清掃をさせられている・・・」
という人も多いですね。
就業規則で始業時間が9時に定められていたとしても、8時に出勤して上司の指示に従っていれば労働時間としてカウントされます。
残業というと夜間のイメージが強いですが、朝の時間外労働も含まれることを覚えておいてください。
自宅での仕事も残業として認められる
「19時には帰らされていたけど、パソコンを家に持ち帰っていた」
「土日も自宅のパソコンを使って会議資料を作らされていた」
残業代削減の名目で退勤はさせるものの、実態は働く場所が変わっただけという例も少なくありません。
情報管理を徹底している会社ならまだしも、セキュリティのゆるい会社だとネットにさえつながればどこでも仕事ができてしまいます。
この場合も、メールの送受信記録などをきちんと残しておけば残業時間として認められるため、何かしら記録を残しておきましょう。
みなし残業や固定残業も超過分は支給対象
「うちの職場はみなし残業だからなぁ・・・」
「固定残業だったから請求できないのでは?」
と未払い残業の請求を諦めてしまう人も多いですが、所定の時間を超過した分については支給対象として認められます。
そもそも固定残業制度を導入する場合、以下の項目について定めがなければなりません。
- 固定残業代の金額
- 固定残業代が、何時間の残業に相当するか
- 固定残業代という名目で支給しない場合は、時間外割増相当分として支給するという記載があること
上記の項目のうち1項目でも欠けていると違法です。
年俸制も残業代は支給対象に含まれる
「うちの会社は年俸制だったから残業代とは無縁なんです」
と考えている人もいますが、年俸制でも所定の労働時間を超えていれば残業代の支払対象です。
もし個人事業主として働いていたなら残業代は諦めないといけませんが、あくまで社員として働いていたなら、まずは労働時間を計算してみてください。
「残業代なんて払いたくない!」
という理由で年俸制を導入している悪質な企業も実在します。
あなたが年俸制で働いているなら、基本的な知識を身に着けておかないと損をしますよ。
裁量労働制も残業代ゼロとは限らない
「一応管理職で裁量労働制だったからなぁ・・・」
と遠い空をみているあなた、経営者や役員として働いていたわけでないなら残業代を請求できる可能性があります。
残業代削減のためだけの名ばかり管理職なんて、絶対に認めてはいけません。
そもそも裁量労働制とは、言葉の通り仕事の進め方を労働者の裁量に任せるということ。
一例として出社・退社時刻が定められているなら、基本的に裁量労働制の対象とはなりません。
都合よく騙されないために、正しい知識を身に着けることが大切ですよ。
専門家の力を借りて残業代を取り戻そう
個人で未払い残業代を請求しても、会社側がまともに取り合ってくれない可能性もあります。
優秀な法務担当者や強力な顧問弁護士がいると、知識を武器にうまく丸め込まれてしまうことも。
「なんとしても未払い残業代を取り戻したい!」
ということであれば、労働問題に強い弁護士などの専門家の力を借りることをおすすめします。
もちろん手数料は請求されますが、ひとりで請求するよりたくさんの金額を取り戻せることも多いですよ。
さらに在職中にパワハラを受けていた場合だと、未払い残業代のほかに慰謝料を請求できる場合もあります。
未払い残業代は、本来あなたがもらえるはずだったお金です。
2年間放置して時効を迎えてしまう前に、一歩を踏み出してみませんか?