ケガや病気で働けなくなったとき、あなたはどうしますか?
今の勤め先は、入院中も今までと変わらず給料を支払ってくれるでしょうか。
残念なことに休職中は、無給扱いにされてしまう企業が圧倒的多数。
貯金を切り崩すにしても、当面の生活は苦しくなってしまいますね。
ケガや体調不良で長期に渡って働けなくなったとき、傷病手当金(しょうびょうてあてきん)の利用を検討してみましょう。
傷病手当金とはどういう制度なのか、受け取れる金額、条件について、このページで詳しく解説します。
ケガや病気で働けない人のための制度
傷病手当金とは、病気やケガで働けなくなったときに一定のお金を受け取れる制度。
全国健康保険協会では以下のように説明されています。
傷病手当金は、病気休業中に被保険者とその家族の生活を保障するために設けられた制度で、被保険者が病気やケガのために会社を休み、事業主から十分な報酬が受けられない場合に支給されます。
引用元:全国健康保険協会(協会けんぽ) 病気やケガで会社を休んだとき
一般的な企業に勤めている方であれば、会社から健康保険を渡されていますよね。
毎月の給料から保険料が天引きされて、手取りが少なくなることに不満を感じていた方も多いことでしょう。
私たちが収め続けた保険料は、医療費負担の軽減以外に体調不良で働けなくなったときにも役立っているのです。
国民健康保険には傷病手当金の制度がない
傷病手当金の詳しい説明に入る前に、大切なことをひとつお伝えします。
自営業やフリーランスとして働いている方は、傷病手当金を利用できません。
なぜなら国民健康保険には傷病手当金という制度そのものがないのです。
傷病手当金の支給対象となるのは、あくまで勤め先で健康保険に加入していた人のみ。
国保に加入している方は、就業不能保険などへの加入をおすすめします。
傷病手当金として支給される金額
実際のところどれくらいのお金を受け取れるのか、気になりませんか?
ざっくりと計算するなら、おおむね就業時の3分の2程度の金額を受け取れます。
贅沢はできませんが、ムダ使いをしない限り、最低限の生活は続けていけるでしょう。
支給金額の計算方法
傷病手当金の支給金額は、以下の計算方法で算出できます。
まずは支給開始日以前の、直近12ヶ月分の標準報酬月額を平均した金額を算出。
この金額を2倍して、90で割った数字が1日当たりの傷病手当金となります。
支給開始日以前に12ヶ月間未満しか働いていない場合、前職の間にブランクがなければ、前職で働いた期間も含めた直近12ヶ月分の標準報酬月額を使って計算します。
前職の間にブランクが1日でもある場合は、今働いている会社での標準報酬月額を平均した金額を使います。
ただし算出した平均金額が28万円を超える場合は、上限金額の28万円となります。
この金額を2倍して、90で割った数字が1日当たりの傷病手当金です。
標準報酬月額とは
標準報酬月額とは、あなたが毎月会社からもらっている給与等の金額をランク分けし、健康保険料や厚生年金保険料の計算を簡単にするための制度。
たとえば「報酬月額が195,000円から210,000円までの人は、標準報酬月額が200,000円」といった分け方になっています。
報酬月額には給与だけでなく、各種手当や通勤費なども含んで計算します。
傷病手当金を受け取れる期間
傷病手当金を受け取れる期間は、支給が開始された日から1年6ヶ月。
ただし、1年6ヶ月分支給されるというわけではないことに注意が必要です。
また在職中に職場復帰した後、同じ病気やケガを理由として会社を休んだ場合は、引き続き傷病手当金が支給されます。
しかし離職後に一旦仕事に復帰できる状態になった場合は、その後同じ病気やケガを理由として会社を休んでも傷病手当金は支給されません。
傷病手当金が支給される条件
会社でケガをすればお金がもらえる! と安易に考えてはいけません。
病気になったりケガを負ったからといって、どのような場合でも傷病手当金が支給されるとは限りません。
傷病手当金の支給は、以下3つの条件すべて満たす必要があります。
- 連続3日間以上、また合計で4日間以上会社を休むこと
- 申請者が従事している仕事に就けない状態であること
- 在職中の場合は無給か、傷病手当金の支給額よりも給与額が少ないこと
それぞれについて詳しく見ていきましょう。
連続3日間以上、また合計4日間以上会社を休むこと
傷病手当金を受給する場合は、連続で3日間以上出勤できない状態であることが必要です。
これを「待期3日間」と呼びます。
待期3日間の考え方は会社を休んだ日が連続して3日間なければ成立しません。
連続して2日間会社を休んだ後、3日目に仕事を行った場合には、「待期3日間」は成立しません。
引用元:全国健康保険協会(協会けんぽ) 病気やケガで会社を休んだとき
このため2日間休んで3日目に出勤ということを繰り返していると、いつまでたっても傷病手当金の受給対象となりません。
なお待期期間については、出勤できない状態であれば有給休暇であっても待期期間の計算対象となります。
申請者が従事している仕事に就けない状態であること
傷病手当金を受給する場合は、申請者が仕事に就けないことも条件となります。
この場合、単に仕事に就ける状態であっても、休む前に従事していた仕事に復帰できない場合は傷病手当金の受給対象となります。
在職中の場合は無給か傷病手当金支給額より少ないこと
在職中の方の場合は、給与の支払額についての条件もあります。
以下のいずれかにあてはまる場合に、傷病手当金の支給対象となります。
- 休んでいる期間の給与が支払われない場合
- 休んでいる期間の給与が減額され、傷病手当金の支給額よりも少ない場合(この場合、傷病手当金との差額が支払われます)
実際の運用上は、有給休暇がある場合はまずそれを消化するように求められるでしょう。
この場合、休んだ日は給与が支払われますから、有給休暇を使い切るまで傷病手当金の対象とはなりません。
仕事上の病気やケガは労災の給付が優先される
仕事中にケガをしたら労災認定されるんじゃないの? と疑問に思った方もいることでしょう。
そうなんです、仕事中や通勤中に起きた病気やケガは、基本的に労災による給付が優先されます。
労災保険(労働者災害補償保険)とは労働者災害補償保険法に基づく制度で、業務中や通勤の際のケガや病気に対して保険給付を行う制度です。
しかも、業務中や通勤の際の傷病に対してだけではなく休業中の賃金補償も行われ、後遺障害が残った場合や死亡した場合にも被災した労働者やその遺族へ保険給付が行われる制度です。
引用元:経営ハッカー 労災保険とはどのような制度?
ケガはともかく、仕事上で起きた病気というものは想像がつきづらいですね。
たとえば長期間に渡って人格を否定するなどのパワハラが行われたことにより、うつ病を発症した場合などがあげられます。
傷病手当金を受給するポイント
傷病手当金を受給するには、いくつか注意しておきたいポイントがあります。
それぞれについて、確認していきましょう。
辞める人よりも仕事を休む人に手厚い制度
傷病手当金は、在職中の方と離職した方とでは重要なちがいがあります。
それは働ける状態になった後の扱い。
在職中の場合、最初に給付を受けてから1年6ヶ月以内であれば、再び具合が悪くなっても傷病手当金を受け取ることができます。
しかし離職した後は、一旦働くことができる状態になった時点で給付は打ち切りとなりますから、再び具合が悪くなっても傷病手当金を受け取ることはできません。
この点で傷病手当金は、仕事を休む人により手厚い制度といえます。
在職中の方は毎月会社の証明が必要
在職中の方で傷病手当金を受給する場合、給与が支払われているかどうか、毎月会社に証明をしてもらう必要があります。
給与が支払われている場合、傷病手当金の受給対象外となるためです。
このため在職中の方は、毎月会社を通じて申請が必要になることを理解しておきましょう。
退職日に出勤した場合、その後の傷病手当金は支給されない
退職後も傷病手当金を受給し続けようとする場合、退職日に仕事ができない状態であることが条件です。
もし退職日に半日でも出勤した場合、退職後は傷病手当金が支給されません。
デスクの整理や引き継ぎなど、会社から退職日に出社を求められた場合は注意しましょう。
たとえ短時間であっても、別の日に出社することをおすすめします。
傷病手当金と失業保険とのちがい
体調不良をきっかけに会社を辞めたのなら、失業保険をもらえるのでは? と思う方も多いですね。
似ているように思いますが、傷病手当金と失業保険は明確にちがう点が多々あります。
傷病手当金は業務外の病気やけがによって会社を休んだ場合に支給されるものであり、失業給付は働きたいが職が無い場合に支給されるもの。
ケガや病気で退職した場合、あなたに働きたい意思があっても働けない状態とみなされ、失業給付の対象外となります。
ポイントを整理すると、以下の通りです。
傷病手当金 | 失業保険 | |
---|---|---|
申請先 | 健康保険 | ハローワーク |
給付制限 | なし | 自己都合退職は3ヶ月 |
待機期間 | 3日間 | 7日間 |
受給期限 | 受給開始から1年6ヶ月以内 | 離職から1年以内 |
退職後、ケガや病気ですぐに働けないときは傷病手当金、すぐにでも働ける状態なら失業保険の申請を検討してみましょう。
ただし自己都合退職の場合、3ヶ月の給付制限に注意が必要です。
体調を崩したときは傷病手当金の検討を
連日のサービス残業や上司からのパワハラ、働きすぎが原因で体調を崩してしまう人が増えています。
残っていた有給休暇も使い切ってしまい、このままだと生活ができなくなってしまう……と不安になったときは、傷病手当金の存在を思い出してください。
骨折などのケガであれば、傷が回復さえすれば仕事に復帰できるでしょう。
しかしながら精神面にダメージを負ってしまった場合、一旦回復しても症状が再発したり、さらに悪化することもあります。
万が一休職を繰り返した場合も、在職中であれば再度傷病手当金を受け取れます。
退職して新たな仕事を探すにしても、まずは体調回復が最優先。
傷病手当金の制度を活用して、安心して療養生活を送れるようにしましょう。