求人広告に書かれている「残業なし・定時退社」を信じて入社したものの、毎日持ち帰り残業に苦しむといったことになると、職場への不満はたまる一方です。
まさに「こんなはずではなかったのに…」という思いでいっぱいでしょう。
求人を見つけてから内定をもらうまでの間に、面接などいくつかの選考を受けますが、これは企業を見極める良い機会です。
そこで今回は、持ち帰り残業がなく、本当に残業のない職場を見極めるためのチェックポイントについて詳しく解説します。
多くの企業で持ち帰り残業が行われている
持ち帰り残業は昔から「風呂敷残業」とも呼ばれていた通り、根深い問題となっています。
2016年3月にみずほ情報総研が厚生労働省の委託を受けてまとめた「過労死等に関する実態把握のための社会面の調査研究事業報告書」によると、以下の報告がされています。
持ち帰り仕事がある者の割合は、正社員全体では 34.5%、非正社員全体では 17.4%であった。
持ち帰り仕事がある場合の頻度は、正社員、非正社員ともに全体では「月 1 回以下」の割合が最も高く、それぞれ 25.0%、30.4%であった。
持ち帰り仕事が「ほぼ毎日」ある者の割合は、正社員全体では 12.4%、非正社員全体では 10.2%であった。
(中略)
持ち帰り仕事がある場合の頻度が「ほぼ毎日」の者の割合は、「教育、学習支援業」で最も高く 23.8%、次いで「学術研究、専門・技術サービス業」で 16.6%であった。
持ち帰り仕事がある場合の 1 か月当たりの平均実作業時間は「情報通信業」で最も長く 24.9時間、次いで「サービス業(他に分類されないもの)」で 22.3 時間であった。
また2017年5月にアイキューブドシステムズが公表した「オフィスワーカーの労働環境とストレスに関する実態調査」によると、持ち帰り残業をしている人は全体の44.8%にも及んでいます。
このように持ち帰り残業は、まだまだ多くの企業で行われていることが現実です。
無理に定時退社を推進すると持ち帰り残業に
持ち帰り残業が発生する背景には、残業時間の短縮にのみ一生懸命に取り組み、仕事量の調整をしないという企業風土があります。
本来残業せずに業務をこなせるような改革をするためには、現在行っている仕事の内容を精査した上で、全社レベルで以下のような取組を行うことが欠かせません。
- 業務プロセスの見直し
- 会議など不要な社内業務のカット
- 発注元の要件を精査し、不採算案件は受注しない
- 従業員や製造機器等の稼働状況を把握した上で、空きがある場合のみ受注する
上記のような取組みが行われていれば、本当に残業の無い職場になり得るといえます。
その一方最も避けるべき態度は、顧客の要望に応えて無制限に受注する一方、従業員に対しては残業ゼロを進めることです。
仕事量が増えればそれにかかる時間が増大することは、小学生でもわかる理屈です。
このような経営者の下では、決して持ち帰り残業はなくならないでしょう。
そのため、早めに退職することが良いといえます。
「残業無し・基本は定時退社」も油断できない
転職活動をしていると、募集欄に「残業は基本無し」「17時ピタ上がり」などの文字を見かけます。
もちろんこのなかには、本当に定時退社が実現できている職場もあるでしょう。
しかし以下のような職場もありますから、注意が必要です。
- 残業代を支払わないことをもって、残業が無いとしている
- オフィスの光熱費節約のため、定時を過ぎると会社から追い出される
- 残業できないため、勤務時間内の仕事がハード
持ち帰り残業をすることのデメリット
当然のことながら、持ち帰り残業にはいくつかの重要なデメリットがあります。
この点について触れていきましょう。
残業代は支払われないことがほとんど
持ち帰り残業は、会社の管理監督の及ばない場所で行う作業です。
そのため、会社は従業員が勝手に仕事を行っているとして、残業代を支払わない傾向にあります。
未払い残業代を払わせるには従業員から請求を行う必要がありますが、弁護士等を通した交渉や裁判が必要な場合もあり、泣き寝入りするケースも少なくありません。
情報漏えいにつながるリスクが高い
持ち帰り残業には、もう1つの大きなリスクがあります。
それは、本来社内で管理すべき機密情報を社外に持ち出すことにより、情報漏えいが発生してしまうリスクです。
紙やUSBメモリ等で持ち出せば紛失や盗難のおそれがあります。
また喫茶店など作業する場所によっては、のぞき見などによって情報が社外に流出する可能性もあるでしょう。
一方、インターネット経由で社内システムにログインする場合も、油断は禁物です。
セキュリティ対策が不十分なパソコンやスマートフォンを従業員が所持している場合は、この端末からアクセスすることにより、機密情報が流出するおそれがあります。
持ち帰り残業の有無をチェックする方法
面接の場でストレートに「持ち帰り残業はありますか?」とたずねても、本当のところはなかなか答えてもらえないことが実情です。
そのため実際に持ち帰り残業があるかどうかを知るには、質問にも工夫が必要です。
情報漏えいのリスクに対する具体的な対策があるか
そもそも持ち帰り残業は情報漏えいにつながるというリスクを経営層が認識しているか、という点は大きなポイントです。
そのため「持ち帰り残業をさせれば残業代を払う必要もないので、人件費節約になる」と思っている経営者は、認識が甘いと言わざるを得ません。
昨今の社会情勢により、企業からの情報漏えいに関する世間の目は、大変厳しいものがあります。
実際に情報漏えいが発生した場合は拡散した情報を回収することは難しく、また自社のみならず取引先にも多大な被害を及ぼします。
いざというときは会社としての問題となりますから、情報持ち出しの判断は従業員任せにせず、経営層が率先してリスクを認識しルール作りに取り組む必要があります。
上記のような認識が無い会社は、将来情報セキュリティ事故を起こし、会社の存続が危うい事態に陥ることにもなりかねません。
残業の少なさをアピールする会社は具体例を確認
企業によっては、残業ゼロや残業削減をアピールする会社もあります。
その場合は、残業を減らすために実施した取り組みをたずねてみましょう。
残業削減の取り組みは大変な努力が必要ですから、本当に実現した企業では、例外なくその取り組みが記憶に残っているはずです。
少なくとも、「貴社ではここまで徹底させるのか」と応募者をうならせる答えが返ってくることでしょう。
これに対して、「うちの社員は優秀だから残業は不要」等の回答をしてきた場合は、ほぼ間違いなく形だけの残業ゼロと考えることが無難です。
そもそも大変優秀な霞が関の国家公務員でさえ、長時間残業に苦しんでいるのが現状ですから、このような企業では持ち帰り残業が現実と考えて良いでしょう。
またさらに悪質な場合は、残業代を全く支給しないケースさえあります。
「従業員の努力で残業ゼロを実現」は要注意
同じ意味で、「従業員の努力で残業ゼロを実現」という言葉にも要注意です。
そもそも、残業ゼロや残業削減に従業員の努力が必要なことは当たり前であり、むしろ経営層の覚悟がないとなかなか実現できません。
そのため「従業員の努力で残業ゼロを実現」ということは経営層は何もしていないということでなり、むしろ経営者の無策を非難されても仕方ありません。
実態は、社内残業が持ち帰り残業に変わっただけと考えることが無難でしょう。
またこのような企業では、残業が必要なのは社員の能力が低いためとして、残業代を支払わないことを正当化している場合もあります。
多重下請け企業に残業削減は現実的に難しい
IT業界でのシステム開発業務を中心に、多重下請けの構造がまだまだあります。
このような企業では自社の上司からではなく、常駐先の上長の指示に従わざるをえないことが常態化しています。
従って特に3次請け、4次請けといった企業では、自社で残業時間をコントロールすることは不可能に近いでしょう。
そのため、このような企業には入社しないことをおすすめします。
残業削減の理由を見抜いて納得のできる転職を
ここまで説明した通り、「残業なし・定時退社」と書いていた場合は、それが真実であるかどうかをきちんとチェックする必要があります。
本当に残業が無い、または少ない企業ももちろんあります。
しかしそれは、経営者と従業員がさまざまな工夫を行った結果として得られたものです。
決して従業員だけの努力で成し遂げられるものではありません。
そのため、さまざまな質問をしていくなかで以下のような姿勢が現れた場合は、持ち帰り残業が行われている可能性が高いでしょう。
- 当社は従業員が優秀だから残業無しでできる
- 残業しなければならないのは従業員の能力が足りないからだ
このような企業風土では、本当に残業ゼロや残業削減を実現することはできません。
「残業なし・定時退社」が可能になった理由をしっかりチェックすることが、本当に残業が少ない企業を見極める大きなチェックポイントとなります。
あなたもこのことをチェックし、残業が少ない企業への内定を勝ち取ってください。